第2章 乗り越えた先に_
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そんな事を考えていた瞬間だった
『近藤学生』
ふと、聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、咄嗟に振り返る
「ッ!…姉ち…っ…山下先輩…」
俺がそう言うと姉ちゃんは顔色一つ変えず俺の目を真っ直ぐ見た
なんだ?なんで黙ってるんだ?
『近藤学生、今がどういう状況か分かっているの?』
「ぇ…?」
『廊下で先輩と会った』
そうだ、いくら姉ちゃんだからって舎内では他人の振りをするんだった
慌てて、敬礼をし挨拶をするが違う!と怒鳴られる
『着帽時は10度の敬礼ではなく挙手の敬礼!
習ったでしょ!』
「ッ!ぁ…!」
『腕の角度!手は伸ばさない!
かかとが揃ってない!』
兄弟だからと言って容赦がない指導をしてくる姉ちゃんに、クラッと目眩を覚えた
『そう!それが正しい敬礼よ!』
やっと合格を貰い一安心する
そして、先程の位置まで戻ろうとすると姉ちゃんが俺の腕をつかんできた
『何、勝手に戻ろうとしてるの?』
「え?」
『腕立て伏せ、10回
もちろん、やるわよね?』
先程の日夕点呼の時と同じ笑顔でそう言う姉ちゃん
『あ、ついでに、後ろで話してた学生もこっちに来なさい』
そう言われ俺の後ろにいた奴らは一瞬、肩を揺らし俺の隣にやってきた
『喋ってる暇があるなら、そのだらしない作業服の着こなしをどうにかしなさい!』
「は、はいっ!」
『よぉーし!腕立て10回!用意!』
そう言われ、俺たちは腕立ての姿勢をとった
『一ッ!二ッ!お腹から声出しなさい!』
「は、はいっ!」
ふと、視線を感じ後ろを見ると西脇サブ長や坂木部屋長がこちらを見ていた
よくよく見ると他の先輩方もこちらを見てる
監視…されてる…?
「ぁ…!」
まさか姉ちゃん…わざと…
あのまま、姉ちゃんが現れなかったら俺は今頃、違う先輩と出会ってた
他の先輩だったら腕立て伏せ10回じゃ済まなかったかもしれない
なんだ
怖くてもやっぱり姉ちゃんは姉ちゃんだ
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