第1章 これはきっと何かの間違い_
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4月1日
【神奈川県 横須賀市 防衛大学校】
「ん〜!今日も快晴!」
同室である三学年 一条 由美(いちじょう ゆみ)の声が女子部屋に響き渡った
ほとんどが新入生の準備で忙しそうにしている今日この部屋でラジオ体操をしているのは多分、この子だけだろう
この二年間、地獄の訓練に耐えた一条の背中はやけに逞しく見えた
それを呆れるように見ている四学年 サブ長の河野 志織(こうの しおり)はクラッカーを手に持ちながら由美の方を向いた
「ほら、手伝って
もうすぐお客様が来るわよ」
そう言われ元気よく返事し、ロッカーから段幕を取り出してる
そんな声を聞きながら私は部屋にあるネームプレートを見た。
全て一つ学年が上がっている
そう、4月1日
今日から私たちは一つ学年が上がるのだ
そして何より今日は新入生の着校日だ
「なんて言って今日は…!」
「「着校日!!」」
「今年は何人残れるでしょうね〜」
顔を合わせ笑顔でそんな事を言ってる、同学年の志織と一学年下の由美を横目で見つつ、私は机にある本と睨めっこをしていた。
私の机には“ようこそ”と書かれた看板がある。
もちろん、これはわたしが書いたのではない
サブ長の志織だ
「山下部屋長、また本読んでるんですか?」
私の顔を覗き込むように聞いてくる同じく同室の二学年 望月 真希(もちづき まき)は、少し寝癖がついた髪の毛を揺らしながらこちらを見ていた。
「…ぇ…?あ、うん…」
「何?また本読んでるの?
暇ならお菓子とか買ってきてくれない?」
部屋の飾り付けをしている志織に本を取られ、私は仕方なく部屋から出てPXに向かった
男子寮の前を通るとみんな忙しそうに新入生の準備をしていた。
こんな時間に歩いてるのは多分私ぐらいであろう
そんな事を考えながら私は、約半年前の出来事を思い出していた
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