第5章 あの子は誰だ
(夢の中…そうだ、あの子は)
きょろきょろと、あたりを見渡すと、
靄の中から、愛衣が姿を現した。
『ねえ、気づいた?月島蛍くん。私がずっと、君を知っていたこと』
「ああ。もうすっかり思い出したよ。西堂愛衣。」
小さな頃に、僕と一緒にいたあの子。
“けーくん、わたしがしんで、泣いてくれる?”
「死ぬとかどうとかは、昔から言っていたよね」
ガチャン。と、
記憶の扉が開いたように、君を思い出す。
『良かった』
「どうして、君は僕の夢の中に現れる?これは、僕がつくりあげた幻覚なのか?」
『そうだね…教えてあげる…夢っていうのは、その人の深層心理をうつすの。あなたの、深い、深い心の奥。
いつか見たあの子は、蛍くんが覚えていないだけで、あなたの中に、ずっと存在している。
ナルコレプシーという病気がきっかけで、眠りに深く干渉して、私を思い出したのね。』
「つまり、目の前の君は…」
『あなたの、昔の思い出の中のあの子。』
「じゃあ、今の西堂愛衣は」
『現実世界の、どこかにいるはず 。ああ、でも最後に…
……私を探して、けーくん』
それだけ言って、また愛衣は姿を消した。