第5章 あの子は誰だ
「今…愛衣って言った…?」
「お、おう。蛍はてっきり、覚えてたんだと思ってたけど…違うのか?」
どっ、と、頭の中で洪水が巻き起こる。
(愛衣が…?私はあなたを知ってるって言葉、まさか…)
「ねえ…その話、もう少し詳しく聞かせてくれない?」
「あら、珍しいわね。蛍がそんなに食いつくなんて」
普段とは違う僕の様子が珍しいと言いながら母は席を立ち、
しばらくして古いアルバムを抱え、ぱたぱたとこちらに戻ってきた。
懐かしいな、と父さんが笑う。
少し照れたように、兄も笑う。
「ほら、この子がそうよ。
幼稚園から小学一年生くらいまで、ずっとけーくんけーくんって言って、うちにも遊びに来てたじゃない」
母の指差す写真を見ると、そこには、確かに“あの子”がいた。
はにかんだ笑顔が特徴的な、小さな女の子だ。
だけどこれは…
「“あの子”であって、愛衣じゃない…」
「え?」
「…あ」
「蛍…?ああ…発作かしら…明光、ブランケット持ってきてあげて」
「うん」
兄が部屋を出ていく音を最後に、僕はまた深い眠りについた。