第4章 花【進撃の巨人/エルヴィン】
「あなたは誰の奴隷だった?」
思い切って本題をぶつけた。
「言わないように、と言いつけられています」
掛け布団を握りしめ下腹部を摩った少女。少女は自分が妊娠したが故に暴行され捨てられた事に気付いていた。そんな仕打ちをされても、少女にとって飼い主に逆らうことはもっと酷い事をされる事への恐怖でいっぱいだった。
ハンジは少女を暖かく抱きしめる。
「体痛い所は無い? 正直に言ってほしい」
「……胸が痛いです。穴でも開いているみたいな……」
「そっか」
少女の頭を撫でる。
少女は涙を堪えるように掛け布団を握りしめていた。甘えてはいけない。泣いてはいけない。暖かい布団と温もりを与えられ、傷の手当てもされている。帰る場所も行く場所も無い。一人で生きる力は無いので、次の主人を探さないといけない。
しばらくそうしていると、扉がノックされる音が響いた。ハンジが返事をすると、金髪で長身の男が入ってくる。ハンジは少女の容態を軽く説明し、目が合ったので少女は軽く会釈した。本当は立ち上がりたかったが体が動かなかった。
「おはよう」
「おはようございます」
笑顔で言われ少女は戸惑った。一度だってそんな事を笑顔で言われたことは無かったから。
「君の事は何て呼んだらいいかな?」
「私の事は、好きに呼んでいただいて構いません。私はただの奴隷ですから」
「……そうか」
長身の男性は慈しむような眼で少女を見つめた。発見時よりも血色が良くなり、暴行により歪んでいた顔もだいぶ元通りになっている。当初より包帯が減ったことで、可愛らしい童顔と大きな目が際立っていた。