第2章 支配【進撃の巨人/エルヴィン】
「今夜、開けておいてくれないか? 門出を祝して一杯奢るよ」
「ええっ!? そ、そんな、気にしなくていいです!」
「私の我儘だよ。君こそ気にしなくていい。今じゃ二人しか居ない同期だったからな」
こうやって言えば彼女が断れない事を知っている。前世から弱点が変わっていない。せめて、一夜くらい貰ってもいいだろう。
気づかないフリをしていた。でも、気付いてしまった。
俺は、今も彼女に恋をしている。
******************
彼女と飲みに来るのは、これが初めてでは無い。同期という立場を利用して、何度も飲みに誘っている。同期が徐々に減り、二人だけになってからは控えていたが、それでも二人だけで飲みに行く日もあった。
「結婚する事を私にだけは事前に教えてほしかったな」
「あ、えっと……恥ずかしくて……」
ふと彼女の様子がおかしい事に気付く。あんなに祝福されて嬉しそうだったのに、今は陰りを見せている。
「結婚したくないのか?」
彼女は返事をしなかったが、体を震わせたのを見逃さなかった。どうも、幸せな結婚というわけでは無いらしい。
「何故結婚する?」
彼女はスマホを取り出しメモアプリを開いた。素早く文字を入力しているのを黙って見つめる。
しばらくして、彼女はテーブルの下からスマホを渡してきた。この店内では見られている気配は無いが、彼女は周辺を気にするように普段通りの笑みを浮かべながら他愛も無い話をし始めた。それに適当に相槌を打ちながら渡されたスマホを盗み見る。