第9章 満月の夜
暗闇の中でも判るくらい白い肌に触れながら、土方は真選組に乗り込んで来た時の遼を思い出す。
張りつめたような表情で竹刀を握り、向かって来た瞬間に土方は遼に目も、心も奪われた。
剣の腕は上の下……ヘタをすれば中の上程度で、隊士の中に居れば目立つ程ではない。
だが、戦闘の勘が抜群で、どこぞの戦闘民族を彷彿とさせるような動きで場を引っかき回す。
黙っていれば、どこかぼんやりとした雰囲気の少女だが、本人曰く「頭に血が上りやすい性格」ということで、スイッチが入ると顔つきまで変わってしまう。
「そういう所は、総悟に似てるか」
沖田ほどの戦闘狂ではないが、近い物が有るのだろう。何となく目つきが悪くなる辺りはそっくりだ。
「ふっ……とんでもない集団だな、俺達は」
自嘲気味に遼の頭を撫でていた土方は、ある違和感に気付いてその手を止めた。
「何だこれ?たんこぶか?」
ぼこりと盛り上がった頭皮を撫でたり押したりしてみるが、たんこぶにしては固すぎるし、頭蓋骨にしては形がおかしい。
そっと髪をかき分けて頭皮を見ると、不自然に盛り上がったその部分はまるで───。
「角?」
「んんっ……」
あまりに熱心に触れられていたせいか、遼の体が身じろぎをし、土方は慌てて手を離した。
「起きて、は……ないな。よだれ垂れてんぞ」
よく眠っているのだろう。薄く開いた唇の端に零れた涎を拭き取り、土方は改めて後悔した。
「やっぱりお前を真選組に入れなきゃ良かったな」
土方の呟きをかき消すように、季節はずれの風鈴がチリンと鳴った。
翌朝、気分もスッキリ晴れ晴れと目が醒めた遼は、至近距離で眠る土方に気付いて悲鳴をあげ、朝から騒がしいと説教されてしまった。
──おわり──