第9章 満月の夜
「ちょっと落ち着け」
「落ち着いてますよ~?
もうっ、そんなんだから晋ちゃんに出し抜かれるんですよ!」
「だから!晋ちゃんって誰だよ!」
「この間会った時に、晋ちゃん言ってましたよ『真選組は俺がぶっ壊す』って」
物真似なのか、少し斜に構えて煙管を吸うようなポーズを取る遼に、土方は目を見開いた。
「晋ちゃんってまさか…高杉晋助の事か?」
「そーですよ」
首を傾げる遼に、土方は茫然とする。
「あ、それからヅラも!「最近出番が多いから調子に乗ってるんじゃないか?」って」
「お前、桂とも…?!」
「みーんな私の大切な人ですよ」
幸せそうな遼に、土方はごくりと喉を鳴らした。
(コイツ今、何て言いやがった?)
「昔ぃ、天人と戦ってたんですよ~」
「つまり、…」
言いかけて、土方は言葉を飲み込んだ。
遼の言葉が全て真実だとすれば…
「それにね。とと様も一杯天人倒したんですよ。とと様はねぇ…」
ふと、楽しそうに話していた遼の言葉が途切れ、土方は顔を向けた。
そして、目を見開いて驚く。
「何で泣いてるんだよ!」
「うっ、ひっく、うぅ…らって…とと様死んじゃったぁ。わたっ、私のせいで…」
ボロボロと大粒の涙を流しながら悲痛な声をあげる遼に、土方は呆然とした。
「おいっ、神武…」
「ごめんなさい…ごめ、なさいっ」
「お前は悪くねぇよ」
嘆く遼に同情したのではない。直感的に「そう」思ったのだ。
「お前の親父さんが何で死んだのか俺は知らねぇ。けどな。絶対にお前が責任を感じる事は無いんだ」
そう言って遼を抱き寄せる。
「お前は悪くない。だからもう泣き止め」
幼子をあやすように、遼の背中を優しく摩った。
少しずつ小さくなる遼の泣き声に、土方はほっと息を吐くと同時に、我に返る。
(何やってんだ、俺は…)
何だか自分のしていることが急に恥ずかしくなるが、すがりつくようにして泣く遼を離せないでいた。
(コイツ、こんなに小さかったか?)
自分の半分もあるかわからないような細く小さな体は、遼が未だ子供なのだという事を土方に思い出させる。
「もう寝ろ。寝て、起きたら…そうしたら忘れてるだろ」