第6章 部屋と隊服と私
「実は、万事屋さんには江戸に出て来た時にお世話になったんです。江戸には知り合いもいなかったので、道案内や色々と」
真実を隠しつつ、事実を告げる。
ヘタな嘘は勘のいい沖田には気付かれてしまうだろうと警戒してのことだったが、どうやらそれが正解だったらしく、意外に素直に納得した。
「じゃあ後は、関係ねぇな」
「え?」
「旦那、俺たちはここで」
「えっ、おい!」
沖田は遼の手を引っ張って行ってしまう。
抵抗する間もない行動力に、遼は振り回されるように連れて行かれた。
表情の読めない沖田に、遼はどうして良いのか戸惑う。
あれよという間に連れて来られたのは、立派な構えの呉服屋だった。
「ここは……?」
「真選組の隊服を依頼してる店だよ」
「えっ!?」
遼が驚いていると、店主らしき人物が出て来て沖田に声をかける。
「これは、沖田隊長。本日はいかがされました」
「コイツの隊服を作ってくれ。隊士服で──」
沖田は遼をちらりと見ると、店主に何事か耳打ちした。
「畏まりました。では、お嬢様はこちらへ」
「え、あ、ちょっ」
沖田を振り返るが、手を振って見送られる。
諦めた遼が採寸を終えて外に出ると、意外にもまだ沖田がそこに居た。
「待ってて下さったんですか?」
「いや。俺の新しい隊服を用意してもらってたんだよ」
「そうですか。でも、ありがとうございます」
礼を言う遼に、沖田はふいと横を向く。
「もう屯所に戻って大丈夫なんですかね?」
「戻っても仕事しかする事ねぇからな……」
「それじゃあダメなんですか?」
「仕事なんて、どうやってサボるかが大事なんでぃ」
堂々とサボり宣言をする沖田に、遼は少々戸惑うものの、ちゃっかり便乗して「じゃあ、ご飯でも食べに行きませんか」と誘った。
沖田は一瞬驚くが、ニヤリと笑って「いいぜ」と頷く。
「沖田さん、何か食べたい物とかありますか?」
「うまいもん」
「すごい難題ですね」
屯所に戻ったら叱られるだろうな、と思いながら遼は沖田と寄り道を楽しんだ。