第5章 幕府特別武装警察真選組
多分これは最良の策であり、最善ではない。
【幕府特別武装警察真選組】
いつもは賑やかな真選組の道場が、今は耳が痛くなる程に静まりかえっている。
心音さえ憚られるようなその空間で、遼は竹刀をゆっくりと降ろした。
「これで良いんでしょうか?」
遼が近藤を振り返って首を傾げると、道場内の緊張が解けて方々から声が上がる。
「嘘だろ」
「まさか、女……の子に?」
「切腹ものじゃ……」
俄に騒がしくなった道場に、遼は目を瞬かせて辺りを見回し、不安げな表情でもう一度近藤の方を見た。
「あーゴホン。お前ら、静かに…」
「つうか、マジで隊長レベルなんじゃねぇ?」
「うっわ、俺勝てる気しねぇよ」
「でもちょっとイイよな~可愛いし」
「だよな~、腰のラインとか最高」
「美少女の袴姿はやっぱり最強だよな!」
威厳のある声を出してみた近藤を無視して、隊士達は休み時間の女子高生の如くおしゃべりに興じる。
「ちょっ、皆、俺今から良い事言うから!聞いて!」
「剣持った時のギャップもソソるよなぁ」
「黒髪美少女萌えーっ!」
「えっ、ちょっと、聞いてる?
局長話すよーっ!カッコいい事言っちゃうよーっ!!」
近藤が大声を張り上げて注意を促すものの、誰一人として聞いちゃいない。
業を煮やした土方が、苛立たしげにがりがりと頭を掻いて、地獄の底から響くような声を出した。
「そんなに切腹してぇのか?」
途端、隊士達は借りて来た猫のように畏まり、大人しくなる。
「ちっ。聞こえてんじゃねぇか」
(凄い。流石鬼の副長土方十四郎…)
静まりかえった道場に、遼は感嘆の溜息を吐く。近藤はそれを見計らって咳払いをすると、姿勢を正して遼を見据えた。
「えー神武遼くん。入隊試験ご苦労」
「はい」
「我が真選組は君を…」
「オイ近藤さん。まさか、歓迎するなんて言うんじゃねぇだろうな」
「トシぃ、お前だって見ただろう?」
困ったような、呆れたような顔で溜息を吐く近藤に、土方は不機嫌極まりない顔と声で反発した。