第14章 表と裏(作成中)
最低限の生活が行えるこの部屋で、遼すっかり焦燥していた。
高杉が部屋を出てから恐らく三日。
差し入れられる食事で何となく時間が把握できていたが、外の様子もわからないこの場所では、ストレスばかりが堪っていく。
「はぁ……せっかくここまで来たのに」
高杉には「勝手に逃げる」と大口をたたいたのだが、正直お手上げ状態だった。
無機質な壁は厚く、遼が殴る蹴るを繰り返した程度ではどうにもならなかったし、今更高杉に助けを求める気にはならない。
「……副長、もう私の荷物とか処分しちゃったかなぁ」
真選組の面々が脳裏に浮かび、「帰らなければ」と強く思う。
近藤には今回の勝手を謝罪しなければならないし、土方にはきちんと報告をしなければならない。
そして、沖田には――
「ミツバさんのお墓参り、一緒に行こうって誘われてたのに」
供える花を選んで欲しいと頼まれ、二つ返事で了承した約束だった。ミツバの写真を見せてもらい、どんな花が似合うのだろうかと心躍らせていたのに。
「──そうだよ。まだ、約束がいっぱい残ってる。だから、帰らなきゃ」
改めて決意を固め、どこか壊せる壁はないかと探っていると、足音が近づいてきていることに気付いて身構えた。
草履を履いているその足音は、比較的大柄な男のもので、覚えのない遼は首をひねる。
(誰……?)
緊張しながら気配を探っていると、足音の人物は遼の部屋の前で立ち止まると、扉を開けて入って来た。
「あなたは……?」
「初めまして。私は、鬼兵隊の武市変平太と申します」
「何か御用ですか」
「あなたの存在は、晋助殿にとっても、鬼兵隊にとっても害悪でしかありません」
淡々と告げる武市を黙って見上げながら、遼はその真意を探る。
遼に危害を加えるつもりなら、腕に覚えがあったとしても、一人では現れないだろう。
警戒心をむき出しにした遼の様子に、武市はふっと笑った。
「私もまだ、晋助殿に恨まれたくはないので、あなたに危害を加えたりはしませんよ。代わりに、ここから即刻あなたを追い出します」
「――いいんですか?」
「構いません。どうせ今頃、真選組は瓦解しているでしょうから。それに貴女は尊攘の志士でもある。我々にとっては一概に敵とも言えないですからね」