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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第5章 好きな人


「、ちょ、ちょっと!」

複雑そうな顔で私の名前を呼んだリリアンが、私の背後を見てとても慌てた。

「あ、あれあれ!!」

リリアンの言葉に振り返った。





目が奪われたのは、副団長さんやマルクさんと一緒に黒猫亭にやって来た人物。

背が高く、一目で鍛えられたものだとわかる厚みのある体躯。黒い髪を凛々しくオールバックに撫で付け、切れ長の鋭い瞳は何処か色気を滲ませている。その人物は、金の飾りに勲章がついた真っ白な騎士の正装服に身を包み、それがまた良く似合っていた。


目が離せない。凄く、格好良い人だった。


一緒に入って来た副団長さんも凄く綺麗で格好良い人だったけれど、それとはまた違う…凛とした雄々しさを持つ人物だった。


その人物と視線が交わる。
すると、彼は気恥しげに頬を染め首筋を擦って視線をさ迷わせた。

「あー…その、…」

「っ!?」

名前を呼ばれて、その人物が誰だか理解した瞬間、一気に熱が集まり顔が真っ赤になった。

「グレン…さん…?」

「あぁ」

余りの変貌ぶりに驚いたけれど、私に呼ばれ深みのある赤い色をした瞳を笑みに緩める姿は間違いなくグレンさんだった。

「あの、驚きました…凄く、変わってて…」

「…嫌か?」

そんな自分は嫌いか、と問われて慌てて否定に頭を左右に振った。素直に感想を口にしようと口を開きかけて、一度恥ずかしさに閉じたけれど、やっぱりしっかり言わないとと思い直し、また口を開いた。

「いえ、何時ものグレンさんも素敵ですが…今のグレンさんはもっと素敵だと思います」

そう言って微笑むと、グレンさんが更に顔を赤くして嬉しそうに表情を緩めた。


二人の視線が交わる…


短い時間がとても長く感じられた。





動いたのはグレンさんだった。
私の前へゆっくり歩いて来ると、私の目の前で腰に提げた剣を外し床へ片膝をついた。

そして、手にした剣を床へと立てると、私をじっと見上げる。




これって絵本で見た、騎士の誓いの儀式──


「俺…グレン・オーキッドは愛するに剣を捧げる。俺の全力をもって、君を一生守ると誓う。だからどうか…俺と結婚してくれないか」



時が止まったかと思った。




「はいっ!!」

私は気付いたら、泣きながらグレンさんに抱きついていた。
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