第4章 竜
ガタガタと荷車の音がする。
もう顔を上げる力も無かった。生きる為の僅かな望み。その音が自分の前を通り過ぎて行くのを感じ、望みが潰えて俺は目を閉じた。
あぁ、とうとう終わりか…
死を覚悟した、その時だった。
「あ、あの…大丈夫、ですか?」
近くで声が聞こえた。
「ぁ、これで…」
濡れた布が口へと押し付けられた。ギュッと押された布から染み出た液体が乾いた唇、口の中を僅かに濡らした。そこからじわりと温かな感覚がひろがる。
この味は、ポーション…
「飲め、ますか?」
その声の主は、乾いた布にまた液体を含ませて俺の口へと運んだ。その液体がポーションだと気付いた俺は、声の主からポーションの瓶をひったくった。そして一気に喉へと流し込む。
乾き、傷付いた体が癒えて行く。
「あの…お水もあります」
次いで皮袋を差し出された。俺はそれも奪う様に取り上げると、浴びる様にして喉へと流し込んだ。
美味い…
普通の水がこんなに美味いものなのか。
俺は必死になって水を体の中へと流し込んだ。咳き込んでいる合間すら勿体なく、俺は水を飲んだ。
「食べ物…は、その…」
ポーションが少し効いてきたのか、周りを見る余裕が出来た俺は声の主を初めて見た。
俺を助けたのは、小さくて小汚いガキだった。
「あの、食べ物は、これしか無くて…」
「何だ、これだけかよ…」
掠れた声で悪態をついた。ガキが小さな手で差し出して来たのは、乾燥させた芋のツルだった。こんなもん食い物とも呼べねぇ。それでも、無いよりはマシとそれを奪い取ると口へと放り込んだ。
ガキはそんな俺の姿をじっと見て、ホッとしたような笑みを浮かべると「良かった」と口にした。
「ごめんなさい、本当はもっと…」
言いかけたガキの後ろから大きな怒鳴り声が聞こえた。
「っ」
その声にビクリと怯えた様に体を震わせたガキの手には、良く見れば鎖がつけられていた。
「私、もどらなくちゃ…」
ガキは俺へペコリと頭を下げると、慌てて馬車へと走って行った。
「このガキ!大事なポーョンまで……」
バシンと何かを思い切り叩く音が聞こえた。
次いで必死に謝るガキの声。
ごめんなさいごめんなさい、と繰り返しても打つ音は暫く止まず。
「ちっ、気絶したか…おい!コイツ縛っとけ!」
そんな声が聞こえた後、荷馬車が動き始めた。