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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第4章 竜


あのガキ…奴隷だったのか…

汚いガキだと思った。ボサボサの伸びた髪には艶もなく、油でべとついていた。顔も服も汚れていて、俺に食べ物を差し出した手は木の枝の様に細かった。

きっと、勝手にポーションや水を持ち出したのだろう。気を失うまで酷く殴られていた。食べ物は自分の物だったのだろう。奴隷に充分な食事が与えられるはずも無く。あの俺が食い物とも呼べないと思った乾燥した芋のつるは、彼女に与えられた僅かな食事だったに違いない。
それを俺が食べてしまった。今日の彼女の分の飯は有るのだろうか…

「他人なんて…気遣ってる場合じゃ、ねぇだろうがよ…」

俺は、ずっと一人で生きて来た。誰にも頼らず自分一人で何でも出来ると思っていた。人を見下し、馬鹿にして…その結果、パーティーに裏切られた。ポーションも食料も無く、強い魔物と一人で戦う。実質死ねと言われたようなものだった。

俺は必死だった。
こんな所で死んでたまるか!
俺を置いて行った奴等に絶対復讐してやる!!
何度もそう繰り返して、洞窟を抜け出した。

洞窟を抜けた時、これで俺は助かると思った。

それが、どうだ。俺の見た目に脅えて誰も近付いて来ねぇ。皆、厄介事に巻き込まれるのが嫌で遠巻きに見ながら通り過ぎるだけだ。

いくら助けて欲しくても、誰も助けてはくれない。
小さい頃からそうだった。期待しても裏切られるだけ。皆自分が可愛いのだ。自分が良ければ他のやつなんてどうでもいい。
だから、俺もそうやって生きて来た。

「そうか、自業自得…か…ははっ…」


そうだ、俺が死にかけたのは自分のせいなのだ。人を信じず、他者を蔑ろにした俺の…

ふと、あのガキ…少女の、良かった、と俺を見て笑った笑顔を思い出して視界がぼやけた。
自分の事をかえりみず、こんな俺なんかを助けようとした奴隷の、小さな小さな少女…

ギュッと胸を鷲掴みにされた感覚だった…



俺は…………










暫くして、ポーションが効いたのか俺は立ち上がれる様になった。それでも傷はまだ有るし、何時倒れてもおかしく無いくらいにまだ体は回復していない。一刻も早く町で治療した方が良いのだろう。しかし…

俺は近くの町が有る方角を見た。

「……………」


少し迷って、俺はそちらとは反対方向に歩き出した。

馬車が進んだ方へ。
追いかけるようにして歩き出したのだった。
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