第3章 騎士と犯罪者
土と太陽の匂い。
座り込んだままの私を大きくて温かなグレンさんが包み込んでいた。
「すまない…来るのが遅くなった…」
悔しそうに唇を引き結ぶグレンさんの低い声にキュンと胸が締め付けられた。
ちょっとだけ、甘えても良いよね?
私はドキドキと胸を鳴らしながら、そっと手をグレンさんの背中に回した。その体はとても大きくて、回した私の手では足りないくらいだったけれどその大きさに安心した私は先程の嫌な気持ちが薄れて行くのを感じた。
「グレンさん、有難うございまし…っぃたぁ」
ほっとしたら、先程木箱で傷付いた部分が痛み出した。どうやら思ったより深く切ってしまった様だ。太腿がジクジクと痛みに疼き出す。
「っ、す、すまない!」
私の声に慌てて体を離したグレンさんに名残惜しさを感じながら、きっと自分が抱きしめた事で何処か痛めたかもしれないと心配しているらしいグレンさんに慌てて頭を振った。
「い、いえ、その…さっきここへ連れてこられる時に引っ掛けてしまったみたいで」
私の目線を追ったグレンさんが、スカートに出来た染みを目にして眉をひそめた。
「やはり…て……ったか…」
ちっ、と舌打ちが聞こえた後グレンさんが私に手を伸ばした。
「え?…ひゃぁっ」
思わず悲鳴を上げてしまった。何故ならグレンさんが私のスカートを捲りあげたからだ。
「む…」
私の傷に眉をひそめたグレンさん。何やらポケットを漁っていたものの、どうやら探し物は見つからなかったらしい。
「むぅ…」
次いで自分のマントを破ろうとして汚れているのに気付いて手を止めた。どうやら手当をしようとしたものの清潔な布が見つからないらしい。
「ち、治療を……」
慌て始めた彼が微笑ましい。私はポケットからハンカチを取り出そうとしたその時だった。
グイッと足を引かれたかと思うと、屈んだグレンさんの唇が傷口へと寄せられた。
え、待って、そ、それは…
「ん…」
べロリと肉厚の舌が私の腿を舐めた。
「っ!?」
私は驚きに上がりそうになった声を慌てて止めた。
グレンさんは傷口から下へと伝う血の跡を丁寧に舐め濡らして消して行く。傷口へとたどり着いた舌は、異物が入り込んでいないか探る様に、けれど出来るだけ痛みを与えぬ様に気遣いながら這って行く。
優しいグレンさんの舌使い。けれどその傷の場所が悪かった。