第3章 騎士と犯罪者
「んんーーっ」
私の露になった胸元を目にしたオリオンさんの頬が上気する。そして唇を舐め濡らす姿が、獲物を狙う爬虫類みたいで気持ち悪さに涙がにじんだ。
「んー、やっぱり。ちゃんは胸大きいよね」
ずっとそうじゃないかなと思ってたんだよ、と口にしたオリオンさんの手が伸びて来て私の胸へと触れた。
「っ!?」
「ははっ、悪く無いな」
数度私の胸を揉んだオリオンさんの指が胸元の下着へとかかった。ゴクリと喉を鳴らしたオリオンさんの指に力が入り…
グレンさんっ──
無意識に心の中で好きな人の名前を呼んだ瞬間、私の上にのしかかっていた重みが消えた。
そして黒い影が私の前を横切ったかと思うと、地面に仰向けに転がるオリオンさんへとその影は覆い被さった。
「ひっ!」
それは目にも止まらぬ速さだった。
黒い影の抜いた剣が倒れたオリオンさんの顔の横すれすれへと突き刺さっていたのだ。情けない声を上げたオリオンさんが、自分へと覆い被さる人物を見上げる。
「っ、う、ぁ…」
オリオンさんを押さえ付ける人物の顔はここからでは見る事が出来ない。けれど、その人物の顔を確認したオリオンさんの顔色が青くなりガタガタと震え出したのだ。
「……」
オリオンさんの顔のすぐ横に突き刺さった剣がゆっくりと引き抜かれる。その剣は裏路地へと射し込む僅かな光すらも集め反射して輝いていた。
こんな時なのにそれがとても綺麗だと思った。
「死ね」
「ひぃぃ!」
剣に見惚れていたのもつかの間。聞いた事も無い程に怒りに低く響いた声色にゾワッと産毛が逆立った。振りかぶった剣がオリオンさんに下ろされようとしているのに気付き慌てて声を上げた。
「止めて下さい!!」
剣がオリオンさんに触れる手前でピタリと止まった。冷静になった私には、その剣を手にしている人が誰なのか理解出来た。
「グレンさん…止めて、下さい…」
私の声に剣が力なく降ろされる。その隙を見てオリオンさんはグレンさんを押しやり立ち上がると慌てて走り出した。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
真っ青な顔色で逃げていったオリオンさん。彼が居なくなった事を確認して私は体から力を抜いた。
こ、怖かった…
グレンさんが来てくれなかったらどうなっていた事か。
「グレンさ…っ?」
名前を呼んだ次の瞬間、私は大きな体に抱き締められていた。