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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第3章 騎士と犯罪者


「みーつけた」

そんな声が聞こえたと思った途端、口許を大きな手で覆われた。叫び声も出すことが出来ず、背後へとそのまま引っ張られる。

「ふぐっ」

ちょうど人通りが途切れた通り道。薄暗い路地へと引きずり込まれそうになっているのに気付いて慌てて抵抗した。

「っ、ははっ、大人しくしてよちゃん」

名前を呼ばれてゾクッと背筋が寒くなった。視線を走らせれば薄気味悪い笑みを浮かべたオリオンさん。その手が私の口許を押さえ、路地へと引きずり込もうとしていたのだ。

「最近はさ、あの小汚い男が何時もちゃんの傍に居てさ。なかなか話す事が出来なかったからね。でも良かった、これでちゃんともっと仲良くなれそうだ」

はぁはぁ、と興奮している熱い呼吸が私の耳へとぶつかる。その気持ち悪さに一気に顔から血の気が引いた。

「っぐ、ふぐっ、う」

「あーあー、ほらほら、大人しくしてねちゃん」

さも楽しそうに、私を簡単に引きずって行くオリオンさん。やり手の冒険者に普通の女である私がかなうはずなんて無い。それでもこのままではどうなる事か、想像しただけでも怖くて。私は力いっぱい手足をバタつかせた。

「いっ!?」

必死に抵抗していたので気付かなかった。どうやら路地の入り口辺りにあった古い木箱に足をぶつけたみたい。その木箱は劣化してささくれ立ち、私の腿の辺りのスカートを破いて傷をつけた。きっと血も出ているのだろう、熱くてジンジンと腿の付け根辺りが痛んだ。

「ほら、大人しくしないから悪いんだよ」

ね、と優しく話しかけながら薄暗い路地の奥へと私を引っ張りこんだオリオンさんは、私を壁へと放り投げた。

「あぐっ」

ドン、と背中を壁にぶつけ尻もちをつく。痛みに顔を歪めつつも、危険を察した私は慌てて立ち上がり逃げようとした。

「駄目だよ」

逃げようとした私をやすやすと押さえ込んだオリオンさんは、私の口許を押さえて目線を合わせる様に屈み込んだ。

「痛くない様にするからさ、大人しくしててよ」

手馴れた様子で小ぶりのナイフを取り出したオリオンさんは、見せ付けるように光るそれを私の目の前で往復させてから、ナイフの切っ先を私のシャツへと差し込んだ。


ビッ──


一気にナイフが引かれ、糸が切れ、コロコロとボタンが転げ飛んだ。私の胸元が露になる。
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