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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第3章 騎士と犯罪者


「おいおい、聞いたか?とうとうオリオンの奴を騎士に勧誘しようと王国から騎士が派遣されたらしいぞ」

「え?俺はこの街に潜む極悪人を捕まえに来たって聞いたぞ」

何時もより黒猫亭の食堂が騒がしい。それもこれもこの街に騎士様がやってきたからだろう。宿の人達も街の人達も皆騎士様達の事でソワソワしてる。

「ねぇねぇ、。騎士様見た?」

「ううん、まだ見てないよ」

そんな返事を返した私にリリアンが悪戯っぽい瞳を向けて来た。

「ねぇ、もしかしてさ…騎士様達って、グレンさんを探しに来たんじゃない?極悪人を捕まえに来たって言ってるし」

「っ、そんな事ないもん!」

リリアンの言葉に不快な気持ちになり眉を顰める。

「だって、今日騎士様のお宿あらための話が出たら慌てて宿から出て行ったじゃない」

「そ、それは、たまたまだもん!」

それは今朝の話しだ。騎士様達がこの街の宿全てに聞き取りを行う事を私から聞いたグレンさんが、珍しく話半ばに慌てて出かけて行ったのだ。
私との話の途中で居なくなるなんて、グレンさんにしてはとても珍しい。グレンさんの事だから、騎士様達から逃げないといけないような事はないはずだけれど、それでも何だか不安になった。

「だからさ、言ったじゃない。あの顔は何人か殺してる悪い人の顔だって」

「……っ」

今朝、はしゃいでグレンさんに話しかけた。騎士様が街に来た事が嬉しいんじゃなくて、グレンさんに話しかけるきっかけが出来たから。
けれど、騎士様の話しを出した途端グレンさんの目が泳いで…

「違う、グレンさんはそんな人じゃないもん!…っ、リリアンの馬鹿!!!」

私は思わずその場から逃げ出してしまった。
リリアンに怒ったんじゃない、気づいてしまったのだ。私がグレンさんを信じられず、疑ってしまったことを。
もしかしたら、グレンさんはリリアンの言う様に悪い事をしていて騎士様から逃げているのかもしれない。
長い間宿に定期的に泊まっているのも騎士様から逃げているからで…
そう少しでも疑ってしまった自分が許せなかった。

あんなにも良い人を、私の好きな人を疑ってしまった。私は何て最低なんだろう。

グレンさん、ごめんなさい…




私はとにかく宿に居たくなくて、走った。

独りにならない方が良い──
すっかりグレンさんの言葉をその時の私は忘れてしまっていた。
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