第2章 冒険者の街コルト
竜が出た、と思いもよらない事を聞いて私とした事が一瞬思考が停止してしまった。
しかし、それも仕方の無い事だ。
竜と言えばとても珍しい生き物で、しかも団長が15年前に討伐したばかりだ。
竜は基本大人しく、山の上で暮らし人の世界には関わらない。けれど何十年かに1度、竜が人間界へと降ってくるのだ。
人間界へと降りた竜は瘴気をまとい、毒を撒き散らしながら町や村を無差別に襲う。その強さは並の騎士や傭兵、冒険者では歯が立たず、そのせいで滅びた国もある程だ。なので竜が現れたとなれば国を上げての大討伐が行われるのだ。
そんな国の一大事とも言える竜が現れた、とマルクは言ったのだ。
「マルク、そ、れは…事実なのですか?」
震えそうになる手を握り私は唾液を飲み込んだ。
「は、はい、トマの街から報告が有り物見を立てました。そ、そうしたら、竜の、可能性が、た、高いと…鱗も発見されてるっす…」
どうすれば、と涙目でオロオロしているマルクの言う通り今回ばかりは確かに大変な事だった、すまないと内心馬鹿にした事を謝罪した。
「そうですか」
私は椅子から立ち上がると、頭の中でやるべき事を組み立てる。
「今すぐ騎士を派遣します。腕の立つものを集めなさい。城の警備の者以外、皆で出ます」
後は冒険者ギルドに声をかけとにかく最悪の事態を想定して出来る限りの人数を集めなければならない。
「私と団長、貴方は先発で用意が出来た騎士を率いて出ます。後は第二騎士団の…」
「っ…う、うわぁぁぁん」
急に大きな声を上げて泣き出したマルクに体をビクリと揺らした。
「ふ、ふくちょ、副長ぉ…」
涙をボロボロ流し、鼻水まで垂らしている部下の姿に顔が引き攣る。
「だ、団長がいませぇぇぇん!!!!」
マルクが言った言葉に慌てて壁へ貼り付けた日程表へと視線を向けた。
♡団長お休み♡
と可愛いハートマークがついた休み報告が2週間分書かれていた。
そうだった、やけに奴の大嫌いな書類仕事が早いなと思っていた。部下たちの指導にも熱が入っているなと思っていた。廊下をスキップしながら移動しだしたなと思っていた。日程表を恋する乙女のように見詰めながら指折り数えキモイなと思っていた。
それもこれも、この休みが近づいて来たからだったのだ。
今、この国には騎士団長がいない!!!
ヤバい、この国、滅ぶ!!