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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第2章 冒険者の街コルト


落ち着け、落ち着くんですよ私。


この国グランハイド王国の騎士団の頂点、それが竜殺しの英雄オーキッド。彼は何とも異色の経歴の持ち主だ。騎士学校も出ておらず、貴族でもない。
そんな彼を口説いて口説いて口説いて、やっと騎士へと着任させたのが今の若き王アレスト・グランハイド王だ。

団長は元冒険者だ。
出世欲も無く面倒臭がりな彼が騎士団に入る条件の1つがこの休みだった。2ヶ月に1度長期の休みをとること。しかもその休みの間は何があろうとも自分には関わらない事。

そんな無茶な条件が有るにも関わらず、王は彼を騎士へと雇い。
とんとん拍子で団長にまでしてしまった。

そんな条件があったとしても、この国はオーキッド団長を手に入れたかったのだ。たった1人で国をも滅ぼす邪竜を倒して見せた英雄。未だに団長の腕にかなう者はいないと言われている。
副団長の私ですら、まだ彼の実力を測りきれていない。

そんな彼が戦力として居ない事は痛手どころの話では無い。それが分かっているからこそマルクも情けなく泣いているのだろう。



「以前、休みだからと頭がお花畑で鼻の下を伸ばした団長をつけさせた事が有ったでしょう?!」

「は、はい、緊急時に何かあったらと暗部に団長の後を追わせたことが何度か有りますが、尽く失敗してるっす。途中のナスルの街までは良かったんすが、で、でも、そこで必ず見失って…」

竜が現れたのであれば一刻も早く倒さねばならない。長く置けば置くほど、竜は瘴気を貯めて邪竜になる。

「ナスルは竜が現れたと報告のあったトマの街への途中に有りましたね。では、団長を探しながらトマの街へ向かいます。早馬を!一足先に団長を…内密に探す様に通達しなさい。団長の不在がバレれば士気に関わります」

私の指示に、幾らか表情を明るくしたマルクが大きくうなづいた。

「わ、わかったっす!今すぐ手配するっす!」

踵を返し駆け出すマルク。

「ちょ、マルク!扉は静かに…」

言うのが遅かったのか、走って部屋から出ていくマルクが勢い良く扉を叩き閉めた。バッタンと大きな音を立てた後、ガタガタ、ガタン、と片方外れ壊れてしまった扉に頭を抱えた。

「…マルク、扉の修理代、給料から引いておきますからね」

銀色の長い髪を持ち、女性受けがすこぶる良い苦労人の副団長レイ・マクスウェルは今日4度目の大きな溜息をついたのだった。
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