第2章 冒険者の街コルト
重厚な建物。華美な装飾が無い代わりに丁寧な刺繍が施された立派な国旗や騎士団の旗が飾られる兵舎。
ここはグランハイツ王国が誇る最強の騎士団、グランハイツ騎士団の本部だ。そこにドタバタと慌ただしい足音が響く。
「…またマルクですか」
あれ程廊下は静かに歩くように、と言い聞かせたのになかなか言う事を聞かない部下は何年か前に団長が拾って来た傭兵上がりの騎士だ。腕は立つものの、頭が弱いのが非常に残念なところだ。
あの粗忽者が扉を乱暴に開け閉めする事で、ここ数年で何度執務室の扉をつけえたか奴は知っているのだろうか。
既に今の扉も寿命が近い。
「副長!大変っす、レイ副団長ーーーー!!!」
マルクの大変です、は当てにならない。
1週間前は、兵舎裏で飼っていた犬に仔犬が産まれた事で騒いだり。つい先日は家の鍵を無くしたと私に報告をしに来た。
正直、そんな事私が知ったことか、と言いたい。
「副長!!」
ノックとは程遠い、ドアをドンドンと叩きながらマルクが私を呼んだ。
ふぅ、と大きく吐息をついて書類に滑らせていたペンの動きを止めた。
「マルク、煩いですよ。入りなさい…あぁ、扉は静かに開けて静かに閉めること。…背いた場合は殺します」
最後に少し殺気をのせれば、騒いでいたマルクが我に返ったのだろう、ピタリと動きを止めた。
「…は、はい、し、失礼するっ、す…」
普段から落ち着け、静かにしろと言われているのを思い出したのだろう。私の様子をうかがいながら恐る恐る、扉を開けて顔をのぞかせたマルクに今日2度目の大きな溜息をついた。
茶色い髪に犬のような人懐っこい緑の大きな瞳、その目が私の機嫌をうかがうようにおどおどと見てくる。
背が高い癖に、猫背で何時も自信が無いように見えるマルクの瞳が泣きそうに潤んでた。
「何ですかマルク、財布でも無くしましたか?」
書類仕事で俯いていたせいで顔にかかった銀の髪を耳へとかけ直す。私は所詮、大した内容では無いだろうと話を促した。
「ふ、ふくちょ……」
ウルウルと潤み出したマルクの瞳。正直、大きな男に泣かれると鬱陶しい。早く用件を済ませて書類仕事に戻りたい。
「マルク、早く要件を言いなさい」
私は忙しいんです、と続けようとして──
「り、竜が出たっすぅぅ!!」
マルクの言葉を聞いて、私は持っていたペンを手から滑り落とした。