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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第2章 冒険者の街コルト


お昼の片付けも終わって、夕飯の用意をする為に裏口から外へと出た。樽に腰かけて芋の皮剥きを始める。
最初ここへ来たばかりの頃は、山盛りの芋に四苦八苦したけれど今は手馴れたものでスルスルと林檎のように皮を剥けるようになった。

暫く芋の皮剥きに集中していると、ふと手元に影が落ちた。顔を上げると、そこに居たのはオリオンさんだった。

「やぁ、ちゃん」

オリオンさんは、私を見てニッコリと笑った。私は一瞬驚いたけれど、慌てて皮剥きの手を止め、芋とナイフを置いて立ち上がった。

「こ、こんにちは、オリオンさん。どうされたんですか?」

宿の裏手までわざわざ来ているのだ、何か私に用があるのだろうか。

「うん、ちょっとね…」

オリオンさんは、周囲に視線を走らせて他に誰も居ないのを確認した後、ポケットから何かを取り出して私へと差し出した。

「これを、君にと思ってさ」

そう言って、軽い金属の擦れる音がしたと思ったらオリオンさんの手から何かがぶら下がっていた。それは陽の光を受けてキラキラと輝く首飾り…
私の脳裏に、オリオンさんから首飾りをもらって悦ぶリリアンの姿が浮かんだ。

「えっ、そ、そんな高価なもの受け取れません!」

私はオリオンさんの手を押し止めて、後ずさった。

「遠慮なんてしないで良いからさ。あ、もしかしてリリアンにあげた首飾りの事を気にしてる?」

オリオンさんは、首飾りの石の部分を摘み上げて私に良く見えるように翳して見せた。

「ほら、君の首飾りはリリアンにあげたものより立派なんだよ?大きさだって質だって君の首飾りの方が断然良い物だ」

ほら、と嬉しそうに私に詰め寄ってくるオリオンさんの笑顔にゾワっと嫌悪感が走った。
オリオンさんから首飾りを貰って、あんなに喜んでいたリリアンを思うと受け取ることなんて出来ないよ!

「それでも、私はオリオンさんからその首飾りを頂くことは出来ません!」

私はキッパリと断りながらも、オリオンさんに気圧されてさらに後退した。

けれど、それが悪かった。

後ろに壁があったのだ。
しまった、と思った瞬間にはもう遅かった。

一気に距離を詰めたオリオンさんに抱きすくめられて、私は一瞬何が起こったのか分からず硬直した。
そしてオリオンさんが私の耳元で舌舐めずりした後「俺の気持ちわかってるよね?」と囁いて、ニヤリと笑った。
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