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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第2章 冒険者の街コルト


オリオンさんの声が耳元で聞こえた途端、思い切り両手を前に出して彼を突き飛ばした。

「やめて下さい!」

「おっと」

私の精一杯の抵抗も、冒険者のオリオンさんには微々たるものらしく、よろけた彼から少しの距離をとることが出来ただけだった。

私はその隙に何とか逃げようとしたのだけれど、手が伸びて来て私の進路を遮った。
それなら逆の方にと踵を返しても、そちらもオリオンさんの手が目の前に…壁と手に囲いこまれて、逃げ場が無くなってしまった。

「ちゃん、怒らないでよ。他の女の子に優しくした事は謝るからさ」

優しく囁きながら、オリオンさんの手が私の頬へと触れた。

「っ…」

オリオンさんの手の冷たさに体が強ばった。その大きくて硬い手なら、私の首など一捻りで何とか出来てしまいそうだ。

「ねぇ、ちゃん…」

段々とオリオンさんの顔が近づいてくる。

「やっ…」

顔を背けようとして、オリオンさんの手に顎を掴まれてしまった。

嫌だ──

もう少しで唇が重なる、と言う時。
ガタン、と側の扉が音を立てた。

そこに立っていたのはグレンさんだった。

突然の事に驚いたのか手の力が緩んだので、その隙に私はオリオンさんの腕から逃げ出した。そして扉の前に立つグレンさんの後ろへと隠れた。

オリオンさんは小さく舌打ちして私をしばらく見つめた後。

「やだなぁ、本気にした?ただの冗談だよ、冗談」

そう言って私を背に隠すグレンさんを見た後、大袈裟に肩を竦めた。そして、またねと残して去っていった。


オリオンさんが居なくなり、ほっと安堵の吐息をつく。そしてふと気付いた。無意識にグレンさんのマントを強く掴んでしまっていたらしく、慌てて皺になったそこを撫でて伸ばした。

「ご、ごめんなさい。皺にしてしまいました…」

何度も皺の部分を擦る私の肩を優しく叩いて、グレンさんは頭を左右に振った。気にするな、と言ってくれているような仕草に笑みが浮かんだ。

「余り、独りにならない方が良い」

グレンさんは一言そう言うと、私の座っていた樽の側にある木箱へと腰かけた。

それからグレンさんは、芋の皮剥きを再開した私の仕事が終わるまでずっと側に居てくれた。


私が話しかけるばかりで余り会話は無かったけれど、グレンさんがずっと側に居てくれたことが私にはとても心強く、嬉しかった。
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