第2章 冒険者の街コルト
「ねぇねぇ、。これ見てよ」
リリアンが嬉しそうに自分の首もとを指さした。そこには青い小さな石がついた首飾りが光っていた。
「わぁ、綺麗な首飾りだね!」
「そうでしょ?オリオンさんに貰ったの!」
リリアンの頬が薔薇色に染まって可愛らしい。オリオンさんに貰った首飾りを持ち上げては、それを何度も眺めて口許を緩めている。
「良かったね、リリアン」
リリアンは黒猫亭の看板娘で、お宿に泊まる人からも街の男の人からもとても人気がある。
リリアンは誇らしげに鼻を鳴らした。
「えぇ。オリオンさんは強くて格好良くて…騎士団も目を付けているって言うし、将来は騎士様よ?」
お昼ご飯の片付けに床にモップがけする手を止めてリリアンはうっとりと口にした。
「竜殺しの英雄、騎士団長のオーキッド様の奥方様とかそんな贅沢は言わないわ。でも騎士様の奥方って憧れちゃう」
オーキッド様と言うのは、この国の騎士団長様だ。見たことも無いし関わった事も無いけれど、リリアンが言うには濡れた様な男の色気がある大層な男前らしい。数年前に邪竜を退治した功績により騎士団長になったと聞いている。
リリアンは何時もオーキッド様は未だに独身で婚約者も居ない、自分もオーキッド様のような素敵な騎士様とお近付きになりたい。
なんて事を口にしていた。
私は騎士様とかよく分からない。
物語りなどを読んで憧れとかは有るけれど街には自衛団しか居ないし会ったことも無いからピンと来ない。
そんな気持ちが伝わったのか、からかいの色を含んだ瞳をリリアンが私に向けてきた。
「はそんな事、関係ないか。だって、あんたの好みはあのグレンさんだもんね」
グレンさんの名前を出されて、一気に顔が赤くなった。
「だ、駄目だよ!リリアン内緒なんだから!」
唇の前で指を一本立て、慌てて抗議する。そんな私を見て楽しそうに笑ったリリアンが、ごめんごめん、と軽く謝った。
「それにしても、あなた趣味が悪いわよ。あの格好に鋭い瞳、あれは絶対に何人か殺してる目よ、犯罪者に違いないわ」
「っ、リリアン!何てことを言うの!!そんな事、絶対に無いよ!グレンさんは、すっごく優しい人なんだから!!」
流石に怒った私は頬を膨らませ、謝るリリアンを横目にモップに力を入れて思い切り床を擦ったのだった。