第3章 求愛エモーショナルチェンジ!【ケイト甘夢】
「おっはよ~ん!」
軽やかな挨拶と共に、ポンッと肩に手が置かれた。
振り返らなくても誰か分かる。
「おはよう、ケイト」
ホリデーをまたいで年が明けても、この子は変わらない。
「ちゃんセンセーとは今年も会えなかったねー」
年末くらい一緒に過ごしたかったななんてしおらしくしているけれど、どこかおどけた様子だ。
これも、いつものこと。
そう考えるとケイトが入学してからもう三年目なのか。少し感慨深いと思う。
入学式では不安を必死に隠そうとはしゃいでいたのが懐かしい。
あんなハイテンションで大丈夫だろうかとは思ったものの、彼は持ち前のコミュ力ですぐに学園に馴染んだ。
「またそんなこと言って。
新年早々朝練?」
この子は人との距離が基本的に近い。
二年生のフロイドやカリムもそうだが、「近い」時間があまりにも長いとあらぬ噂を立てられてしまう。
高校生は多感な時期なのだから、それは避けなければならないのだ。
さりげなくケイトの手を肩から外すと、彼はニコッと笑う。
「ん~ん、ちゃんセンセーに会いたかっただけ」
「はいはい、いつものね」
そう軽く流すと、ケイトは決まって私の耳に口を寄せるのだ。
「ちゃんセンセーとならむしろ噂になりたいんだけどな」
と。
魔法士を育てる名門ナイトレイブンカレッジにおいて、音楽や美術など、いわゆる芸術科目といのは生徒たちにとって息抜きの時間に等しい。
厳しい実技の授業でもなく、複雑な式を覚える必要もない。
音楽担当の私も、厳しく教育する気はなく生徒たちのしたいようにさせていた。
音楽好きな生徒にとってはこれも休み時間のようなものだろう。
しかし、今日はどこか違った。
二年A組の授業、普段なら誰より楽しそうに楽器に触れ踊るカリムがぼんやりとしていたのだ。
もちろん楽器、今日は太鼓の気分なのだろうか――――それを叩いたりはしている。
他の生徒たちとあわせて演奏している姿は見受けられたが、しかし何度か演奏を忘れている場面があって、それを笑って誤魔化すのも見えた。
何か、あったのだろうか。
自分が軽音楽部の顧問ということも理由なのだろうか、その様子がやけに気になった。