第25章 伝える想い
『………そ、そうですか。あれはこしあんですけど、少しだけ粒残してるんです。』
不「やっぱ手ェ込んでんだなァ。」
『そ、そんなことないですよ。』
正直、予想していなかった不死川の答えに杏は動揺しながらも笑顔を向ける。
杏(だめよ。落ち着きなさい、杏。不死川さんは私の作った"餡子”が好きだと言っただけよ。誰の声だか分からないほどの小さな声を不死川さんは私だってすぐに分かったみたいだけど、…落ち着きなさい。)
杏は僅かに紅潮する頬を手で冷やしながら話を続ける。
不「つか、これなんだァ。」
不死川はヒョイと杏の手からお重箱を取り上げて首を傾げる。
『あ、すっかり忘れてました。おはぎです。差し上げますからそのまま持って帰ってください。』
不「おゥ、ありがとなァ。」
『いえ。喜んで頂けたのなら良かったです。』
嬉しそうな顔でお重箱を見つめる不死川に杏はふふ、と笑いが溢れる。
だんだんと近づいていく花屋敷。
花屋敷が近づいていくにつれ、杏の頬は紅潮し、口数が少なくなっていく。
不「どうしたァ。どこか調子でも悪いのかァ??」
『いえ…。体調はすこぶる良好です…。』
不「ならいいがァ。」
不死川の心配する声にも顔が上げられず、俯いたまま小さな声で返事をする。
杏(どうしよう…。もう花屋敷が見えてきた…。)
視界の先に映った自らの屋敷を見て焦りが募る。
そうこうしているうちに花屋敷の門の前まで来てしまった。
不「じゃあ、また後でなァ。」
不死川はそう言って帰ろうと踵を返す。