第4章 柱合裁判
杏には幼少の頃の記憶がない。
産屋敷邸で目覚めたのは10歳の頃。
杏の記憶はそこから始まっている。
この歌の旋律はふとした時に頭に浮かぶ。
記憶のない10歳以前に歌っていた歌なのか。
何もわからない。
でも………歌うときはいつも、涙が流れる。
静かに涙を流しながら歌う姿が月明かりに照らされる。
『lu〜〜♪la〜la〜〜♪』
──バササッ
歌い終わるのとほぼ同時に杏の隣に一羽の鴉が降り立った。
『おかえり、サクラ。』
サクラと呼ばれた鴉は杏の鎹鴉。
サ「カァァ!!タダイマァ!!」
サクラの頭を撫でて1日の苦労をねぎらってやる。
ご満悦なサクラの足元を見ると、足首に紙が結ばれていた。
『サクラ、その紙はなに??』
サ「蟲柱カラノ手紙ィ!!」
杏に言われたことで思い出したかのように元気に答えるサクラ。
『しのぶさん??何かしら??』
足首からしのぶからという文をとる。
──カサッ
【 杏さん。
柱合会議のときに言いそびれましたが、
もうそろそろ軟膏が切れる頃でしょうから
近いうちに蝶屋敷にいらしてくださいね。
私がいなければいつもどおりアオイに声を
かけてください。
蟲柱 胡蝶 しのぶ 】