第20章 事件
部屋に入ってきて杏の姿を探す隠。
杏(もう、ダメ………。
まだ力も入らない…。)
ぎゅっ、と目を瞑る。
そのとき、ずっと暗かった杏の元に月の光が差した。
その光に目を開けて顔を上げると隠の覆面を取り、ニヤァ、と気持ち悪く笑う男の姿があった。
ヒュッ、と喉がなり、身体の震えがより一層大きくなる。
隠「見ぃつけたー。」
『ぁ……、』
薬による身体の痺れと恐怖で身体がまったく動かなくなる。
杏の瞳が涙で潤んでいるのを見て、隠は杏の腕を思いっきり引っ張る。
『きゃっ、』
突然引っ張られ、薬による痺れで足元がおぼつかずその場に倒れる。
隠は倒れ込んだ動けない杏の両腕を縛り上げる。
『やっ、解いて…!!』
必死に暴れるも簡単に組み敷かれる。
杏(こんなものっ、力さえ入れば簡単に千切れるのにっ、)
恐怖と悔しさで涙が溢れる。
だんだんと近づいてくる隠の顔。
杏(もう、ダメ………。誰か、助けて…。)
絶望に染まっていく視界。
その中にいつも近くにいてくれる、大好きな人の姿が見えた。
杏(いや…、私に触らないで…。
私に、触っていいのは…、)
あと僅かで触れるというとき、ぎゅっ、と目を瞑り、大きな声で叫んだ。