第20章 事件
──ガタッ
衣装部屋の戸から音が鳴り、ビクッ、と身体が跳ねる。
杏(あ………、)
サァ、と顔から血の気が引いていくのを感じる。
隠「ここ、ですね。衝立でも置いてるんですか??出てきてくれないなら蹴破っちゃいますよ??」
すぐ近くで聞こえる隠の声。
杏(大丈夫、戸を蹴破るなんて、隠にできるわけが…、)
隠「私、本当は剣士になれたんですよ。
でも死にたくなかったから隠になったんです。
今でも死なないで済むように鍛錬はしてるので、これくらいの戸蹴破れますよ。」
杏(うそ、そんな……、)
その杏の最後の砦を砕くような言葉を発した隠。
今度こそ、杏の喉からヒュッ、と音がなる。
杏(やだ…、誰か…助けて…、)
カタカタと震える身体を必死に抑え、小鳥遊を引っ張り、部屋の端へと移動する。
何とか姿を隠れるように物を動かす。
隠「あと3つ数えたらいきますねー。
いーち、にー、」
杏(お願い、誰か…)
杏は必死に祈る。
隠「さーんっ、」
──バキッ
『っ、』
大きな音を立てて倒れる戸。
隠「あれ、いないなー。杏様ー。」