第20章 事件
振り返ると、そこには隠の姿をした男が立っていた。
逆行になっており、シルエットしか見えないが、見覚えのある背格好。
杏は小鳥遊を抱きかかえたままその隠を睨む。
杏(この背格好…先刻の隠。)
『貴方、誰…、あっ、』
そう言った瞬間、身体から力が抜け、手を床につく。
杏(…なに??身体に力が入らない…。
これは…痺れ…??)
力の入らない手を見る。
隠「あ、効いてきました??薬。」
『く、すり………??』
顔を見ずとも、ニヤニヤと笑っていることが伝わってくる隠の声。
隠「すっごい高かったんですよ、それ。
ちゃんと効いてよかったです。」
『何のつもり、ですか??』
何とか顔を上げ、隠を見上げる。
隠「狡いですよね、そいつ。みんなの高嶺の花、桜柱様のお屋敷常駐の任務なんて。」
杏の腕の中にいる小鳥遊を睨みつける隠。
隠「音白様はまず湯浴みをされてから夕餉なんですよね??いつも最初に味噌汁を飲む。
だからその味噌汁に薬を入れたんですよ。」
『なんの為に、そんなことを……。』
力の入らない腕に何とか力を入れ、小鳥遊を守るように抱えなおす。