第19章 柱稽古
杏(そんなに前から…。)
これまでそんな状態で任務や治療、柱としての業務を行ってきたのか、と杏は息を呑む。
し「私の刀で1度に打ち込める毒の量はせいぜい50ミリ。しかし、今の私を喰った場合にその鬼が喰らう毒の量は、私の全体重37キロ分。
致死量のおよそ700倍です。」
そう言って、少し下を向くしのぶ。
し「それでも、奴を確実に葬れる保証はありません。少なくともお館様は無理だとご判断されています。」
『お館様が??』
し「はい。だから、私に共同研究をするように言われました。」
『鬼の身体と薬学に精通している方と…。』
杏の呟きに小さく頷くしのぶ。
し「私だけの力では上弦ノ鬼は倒せない。
やはり確実なのは頸の切断です。私はそれをカナヲにやってもらいたいと思っています。」
『カナヲちゃんに…。』
し「はい。あの子には折を見てこのことを伝えるつもりです。最近のあの子は自分の気持ちを素直に言えるようになりました。
私がいなくても、もう大丈夫です。」
優しく微笑むしのぶ。
可愛い妹たちの成長を喜んでいるのだろう。
しかし、その笑顔も杏にとっては胸が押し潰されるように苦しかった。