第17章 刀鍛冶の里-強襲
しかし、兄が叫んだ言葉に無一郎は何も言い返せなかった。
酷いことを言われて悲しかったけれど、それ以上に兄の言っていることが事実であり、反論できないことが悔しかった。
それから双子は口を利かなくなった。
兄が1度、あまね様に水を浴びせかけたときだけ喧嘩をした。
夏に季節が移ろってもそれは変わらなかった。
その年の夏は暑くて、夜も暑くて戸を開けて寝ていた。
そのとき、突然鬼が入ってきて兄の左腕を切り落とした。
痛みに悶る兄を抱きすくめる無一郎に浴びせてきた鬼の言葉。
「うるせぇうるせぇ騒ぐな。どうせお前らみたいな貧乏な木こりはなんの役にも立たねぇだろ。いてもいなくても変わらないようなつまらねえ命なんだからよ。」
目の前が真っ赤になった。
生まれてから1度も感じたことのない、腹の底から噴き零れ出るような激しい怒りだった。
その後のことは本当に思い出せない。
途轍もない咆哮がまさか自分の喉から、口から、発せられていると思わなかった。
気づくと鬼は死にかけていた。
だけど頭が潰れても死ねないらしく、苦しんでいた。
間もなく朝日が昇り、鬼は塵になって消えた。