第13章 記憶
その杏の様子を見て不死川は手を下ろす。
それを確認して杏はニコ、と微笑む。
『その悲鳴を聞いて椿姉さんと急いで2人が行った方へと向かいました。私たちが2人を見つけたときにはもう……紅葉姉さんは大量の血を流して横たわっていました。百合姉さんは傷だらけで、紅葉姉さんを守るようにしゃがみこんでいました。2人の隣には上弦ノ弐、童磨が立っていました。』
“童磨”、その名を口にした途端、悲しみ一色だった杏の瞳に憎悪の色が宿る。
『椿姉さんは連れて行かれそうになる私を守るために闘ってくれました。それで…あの扇で胸を斬られました。』
闘っていたときと同じように殺気を纏う杏。
『頭が真っ白になりました。手を引かれ、連れて行かれそうになったときも何が起こったのかわからなかった。そんなとき、百合姉さんの私を呼ぶ声が聞こえてきて、我に返りました。なんとか振り払って2人のもとへ行くと、虫の息だった紅葉姉さんが私の頬に触れて…まもなく亡くなりました。』
自身の頬に触れ、瞳に薄く涙を浮かべる。
涙が零れ落ちないよう上を向き、話を続ける。
『それから、悲鳴嶼さんと煉獄さんのお父上、先の炎柱であった槇寿郎さまが助けに来てくださいました。もう大丈夫だと思ったところに私が襲われ、突然のことだったので思わず目を瞑りました。一向に痛みがこないので目を開けてみると、目の前で百合姉さんが奴の爪で胸元を貫かれていました。』