第13章 記憶
そして、その隣の簪を撫でる。
『この紅葉の簪は紅葉姉さんのものです。紅葉姉さんは14歳だったので…あ、もし生きてたら不死川さんと同じ21歳ですね。紅葉姉さんは胸元まで伸びた髪で毛先がほんのり橙色に染まってました。私と一緒に接客を担当してて琵琶がとても上手だったんですよ。よく紅葉姉さんの琵琶に合わせて歌っていました。』
3つの髪飾りを胸に懐き、姉たちのことを話す。
その表情には時折、笑顔がみられる。
『みんな名前が花や植物だったので、お店の常連さんたちからは“花の4姉妹”って呼ばれてたんです。』
ふふっ、と微笑むが、すぐ目を閉じ下を向く。
『あの夜、物音がして目が覚めたんです。周りを見ても何もないので不安になって姉たちを起こしました。怖がってる私を椿姉さんに任せて百合姉さんと紅葉姉さんが武器になるような棒を持って様子を見に行きました。しばらくしたとき…家中に紅葉姉さんの悲鳴が響き渡りました。』
不死川は杏の斜め後ろに立っており、よくは見えないが杏の瞳が不安げに揺れるのがわかった。
不「音白、」
もういい、と止めようと手を伸ばすが、ふるふると首を横に振る杏に左手で静止される。