第13章 記憶
かねてから“青い彼岸花”については杏の記憶だけが頼りだと考えていたお館様は神妙な面持ちで尋ねる。
お館様のそのような表情に杏も過去なことを思い出すように、上を向きながら口を開く。
『……“青い彼岸花”は、昔見たことがあるのです。』
お「見たことが…??」
『はい。にわかには信じがたい話ですが、幼い頃山で迷子になったときに本来なら赤いはずの彼岸花が青かったのです。しかし、その話はそのとき私を探してくれていた姉たちにしか言っていないのです。それなのにあの日、童磨に襲われた日に店に来た男は私が“青い彼岸花”を見たことがあるのを知っていました。』
杏は眉間にシワを寄せ、顎に手を当てる。
お「杏の家は甘味処をしていたのだったね。」
『はい。姉たちは美人で評判だったので変な客はこれまでもいました。しかし、あの男は異常であったとしか思えません。あ…万世極楽教、あの男も信者だったんだ(ボソッ』
お「何か気になることでもあるのかい??」
何かに気づいたような杏の表情にお館様が優しく声をかける。
『万世極楽教という宗教が上弦ノ弐に深く関わっていると思っております。』