第13章 記憶
最後の方は声が震えていた。
お館様は立ち上がり、ゆっくりと杏の正面まで向かい腰を下ろす。
お「杏、無理はしないでおくれ。君は今、辛い記憶が突然流れてきて心が疲れているだろう。辛いときはそう言っていいんだよ。記憶が戻っても産屋敷が君の第2の故郷であることは変わらない。私は君の父に変わりはないんだ。」
『耀哉、さま…』
顔を上げると、これまで耐えてきた涙が1つ、1つ、溢れ出す。
ひっく、としゃくり上げながら泣く杏をお館様は優しく抱きしめる。
お「うん、いいよ。存分にお泣き。」
背中をとんとん、と優しくたたくお館様のその言葉に堰を切ったように泣きだした。
『うっ、ねえ、さん…、姉さんっ、』
わんわんと泣く杏を静かに見つめる不死川にはその姿が着物を着た、鬼殺隊とはなんの関係もない9歳の小さな女の子に見えた。
不(…本来なら、そのとき流すはずだった涙かァ。)
そう心のなかで呟き、瞼を閉じて時を過ぎるのを待つことにした。
『申し訳ありません、お着物を濡らしてしまいました…。』
暫くの間泣いていたが落ち着いたのか、目の前の自身の涙で濡れてしまったお館様の着物に羽織の袂から取り出した手ぬぐいを当てる。