第9章 夢
し「杏さんが…。」
いつも笑顔で、だけど心の奥底では何を考えているかわからない。
柱の中でも異質な存在感を放っている杏。
普段はとても親しみやすいのに、ふとした瞬間に誰も寄せつけないような雰囲気を纏っている。
し(杏さんはあまり人を信頼していないのかもと思っていたけれど、杞憂だったみたいね。)
笑顔を向ける杏の姿が脳裏をよぎる。
お「治療のこともあるし、しのぶには話しておこうと思うんだけど聞いてくれるかい??」
し「……はい。よろしくお願いします。」
真剣な顔で頷くしのぶを見てお館様も小さく頷く。
お「まず、杏のご両親ははやいうちに亡くなっていてね。上の姉3人と甘味処を経営して生活していたそうなんだ。」
し「4姉妹の末っ子…ということですね。」
お「うん。4人で楽しく幸せに暮らしていた、杏が9歳のときに家を鬼に襲われたんだ。」
話を聞きながら眉をひそめるしのぶ。
お「行冥と槇寿郎…先の炎柱が助けに行ったのだが、上の姉3人は杏を庇って殺されたんだ。
そのときに意識を失い、目を覚ましたのは…………
その事件から1年後のことなんだ。」