第6章 蝶屋敷
『目覚めて…記憶がなく混乱していた私にくださったお館様のお言葉が今も私の支えになっているんです。』
胸に手を当て目を閉じる杏。
『そのとき、私はこの方のために生きようと決めました。
記憶のない、からっぽで一人ぼっちの私を温かく包んでくださったあの方のために。』
炭「……。」
そのときの杏の笑顔は今まで見てきたどんな笑顔よりも温かく、優しい笑顔だった。
炭「一体、どんな…、あ、」
炭治郎自身もなんで聞いてしまったのかわからなかった。
しかし、杏の表情から聞かずにはいられなかったのだ。
『…内緒です。』
ニコッと炭治郎に笑顔を向ける。
『…なので、私がお館様のご意向を無視することはありません。禰豆子さんに手を出すつもりはないですから、安心してください。』
今日も本当に様子を見にきただけです、と続ける。
炭「お館様に危害さえ加えなければ…ですか??」
真っ直ぐな瞳で杏を正面から見る炭治郎。
そんな炭治郎の真っ直ぐな瞳を見て頷く。
『えぇ。もちろん、あまね様やご子息、ご息女に危害を加えても、ですよ。』
炭(嘘じゃない…。)