第6章 蝶屋敷
そんな炭治郎の心を見透かしているかのように妖しく微笑む杏。
『私は物心つく前から1人でしたから。』
炭「それは…」
善逸や伊之助のように捨て子なのかと言いたそうな顔の炭治郎。
杏(本当に素直…。
考えていることが全部顔に出てしまうのね。)
『私には、記憶がありません。
10歳のときにお館様のお屋敷で目が覚める前までの記憶が一切ないんです。』
炭「…記憶が…??」
目を見開く炭治郎。
『えぇ。だから、わからないんです。
両親が私を捨てたのか。
それとも、人や鬼に殺されたのか。
一人っ子だったのか。なにも。』
微笑んで禰豆子の頭を撫でながら話す杏。
そこで、炭治郎はあることに気づいた。
炭(…そうか。
この人からは強い感情の匂いがしない。
“憎しみ”はもちろんだけど、その他の感情も。
…感情が無いわけじゃない。弱いんだ。)
記憶喪失なんて、不安で不安で仕方ないはずだ。
自分を構成する幼少期の記憶が一切ないのだから。
なのに、自分が記憶喪失であると話す杏の様子はいつもと変わらない。
炭「あの…。」
意を決して声をかける炭治郎。