第6章 蝶屋敷
『…すごいですね。』
下を向き、フッと笑う杏。
杏(人の感情までわかるだなんて…。)
この少年に自身の感情を隠すのが馬鹿らしくなった。
『確かに、私は鬼に対して“憎い”という感情を抱いたことはありません。』
炭「じゃあ、どうして…。」
炭治郎が疑問に思うのも当然だろう。
鬼殺隊に入隊する者のほとんどが身内や近しい友人が鬼に殺された者だ。
鬼を憎むなと言う方が酷な話である。
『そうですね…。炭治郎くんは家族を殺され、禰豆子さんが鬼にされたから。鬼となった禰豆子さんを人間に戻すために鬼殺隊に入隊したのでしたね。』
炭「はい。」
杏(…家族。それにしても、真面目な子…。)
炭治郎の真っ直ぐな目を見て、杏は炭治郎の性格がわかったような気がした。
『私も、家族はいません。』
炭「……。」
鬼殺隊では家族がいない者の方が多い。
家族がいないということにはあまり驚かなかった炭治郎。
しかし、
炭(じゃあ、どうして…。)
家族が鬼に殺されたのなら憎む人の方が多いだろう。
杏が鬼を憎いと思わない理由が炭治郎にはまったくわからなかった。