第37章 祈り
──言葉が、出て来なくなった。お館様の眼差しは母を思い起こさせた。親が我が子に向ける溢れるような慈しみに優しく頬をくるまれる気がした。
不死川が呆然としはじめた頃、杏も大人しくなってきたことを感じとった宇髄は杏を解放する。
杏は押さえつけられていた首を撫でながらお館様の言葉をじっ、と聞き出した不死川を見つめていた。
お館様が再び静かに口を開く。
お「君たちが捨て駒だとするならば私も同じく捨て駒だ。鬼殺隊を動かす駒の1つに過ぎない。私が死んだとしても何も変わらない。私の代わりはすでに居る。実弥は柱合会議に来たのが初めてだから勘違いしてしまったのだと思うけれど、私は偉くも何ともないんだよ。皆が善意でそれその如く扱ってくれているだけなんだ。嫌だったら同じようにしなくていいんだよ。それに拘るよりも実弥は柱として人の命を守っておくれ。それだけが私の願いだよ。」
思わず呆然と立ち尽くしていた不死川だったが、次の一言でさらに目を見開く。
お「匡近が死んで間も無いのに呼んでしまってすまなかったね。兄弟のように仲良くしていたから尚更つらかったろう。」
不「!!」
お館様から紡ぎ出された名前を聞いた不死川はぽつりと言葉を絞り出した。
不「名前…。」