第36章 兄の願い
意外にも冷静な不死川からの問いに眉間に皺を寄せつつ、静かに答える。
杏からの返答に不死川は黙ってさらに速度を上げた。
杏もそれについていく。
広間に辿り着いた瞬間、杏の視界に飛び込んできたのは人が柱に磔にされている姿だった。
目を凝らしてそれが誰だか分かった瞬間、血の気が引いた。
『無一郎くん!?』
杏は思わず叫んだが、焦っている様子の時透の視線の先…柱の物陰を見てさらに血の気が引いた。
上弦ノ壱であろう鬼の前で胴を切断され、倒れ込んでいる玄弥の姿。
柱に隠れており、杏からは辛うじて見えるが不死川からは見えていないだろう。
杏(玄弥くん…!!不味い。このままでは頸を切断される。でも、無一郎くんもこのままじゃ失血死…。)
状況の悪さに一瞬冷静さを欠くも、すぐさま優先順位を決める。
『私は無一郎くんのところに行きますから不死川さんは玄弥くんのところへ!!急いで!!』
玄弥の位置を指差しながら叫ぶと不死川は目を見開き、すぐさま風のように走り出した。
その姿を確認して杏も時透の元へと走った。
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