第36章 兄の願い
一陣の風が吹いた。
──ヒュオッ
辺りに砂嵐が舞う。
黒死牟も思わず後方へと間合いを取った。
──ズザザザッ
砂嵐が晴れた玄弥の視界に映ったのは、大切でずっと話したいと思っていた兄──不死川実弥の姿だった。
黒「風の柱か…。」
不「その通りだぜ。テメェの頸をォ捻じ斬る風だァ!!」
間一髪、玄弥の危機を救うことに成功した不死川の背中を這いつくばった状態の玄弥は目を見開いて見つめる。
玄「兄貴…。」
すると、背を向けたままの不死川がぽつりと言葉を漏らした。
不「…テメェは本当に、どうしようもねぇ“弟”だぜぇ。何の為に俺がァ、母親を殺してまでお前を守ったと思ってやがる!!」
不死川の口から"弟"という言葉を聞いた玄弥は柱稽古で炭治郎に言われたことを思い出していた。
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炭「風柱のお兄さんのことなんだけど、あの人はさ玄弥…鬼殺隊に入ったことを怒ってはいた。でも憎しみの匂いは少しもしなかったんだ。だから怯えなくていいんだよ。伝えたいことがあるなら言ったって大丈夫だよ。
実弥さんは玄弥の事がずっと変わらず大好きだから。」
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不「テメェはどっかで所帯持って、家族増やして、爺になるまで生きてりゃあ良かったんだよ。
お袋にしてやれなかった分も、弟や妹にしてやれなかった分も。お前が、お前の女房や子供を幸せにすりゃあ良かっただろうが。」
ずっとずっと、自分に対して怒っているのだと、嫌われているとばかり思っていた兄の本音に玄弥は瞬きすらできずにその背中を見つめる。
不「そこには絶対に俺が、鬼なんか来させねぇから……。」
玄弥を想う不死川の想いに、ポロポロと涙が溢れる。
そして、玄弥は視線を下げながら謝罪の言葉を口にする。
玄「ごめん兄ちゃん…ごめん……。」