第35章 春の足音
そのカナヲの言葉に伊之助は観念したかのように左腕を突き出した。
し「あらあら。急に素直になりましたね〜。」
楽しげに笑いながら痛みを堪える伊之助に容赦なく注射を打つしのぶ。
カナヲは浅い傷ばかりで出血はそんなになかったため、手当てだけされる。
さて、行こうかというところでしのぶがカナヲを呼びつける。
し「カナヲ、ちょっと座ってもらってもいいですか??」
カ「は、はい。」
カナヲは指示通り素直に地面に座る。
しのぶはカナヲの後ろに立ち、慣れた手つきで解けてしまったカナヲの髪を触る。
あっという間にカナヲの髪の毛をいつものサイドテールに結び上げると、突然自身の髪を解いた。
そして、結び上げたカナヲの髪を自身の紫の蝶の髪飾りで留める。
し「よし、これでいいわね。」
カ「ありがとうございます…。でも、これじゃあ姉さんの髪が…。」
カナヲは結んでもらった髪を触りながら遠慮がちに尋ねる。
その質問にしのぶは切なげに眉を下げながら答える。
し「私は流石にもう最前線には立てそうにありません。医療部隊の方の指揮に回ろうと思います。なので、今髪留めが必要なのは私よりカナヲです。」