第35章 春の足音
カ「ごめんなさい姉さん。ごめんなさい。私、あのとき泣けなくてごめんなさい…。」
し(あのとき??……あぁ、あのとき。)
何度も何度も謝るカナヲを見ながらしのぶはあのとき─カナエが亡くなり墓へと埋葬され、蝶屋敷の皆で手を合わせていたときの記憶が甦ってきた。
カ「カナエ姉さんが死んだとき、泣けなくてごめんなさい。皆泣いていたのに…。」
皆、涙も声も枯れるまで泣いていた。
し(そんなこと…まだ気にしてたのね…。全然気づけてなかった…。)
勿論、カナヲも悲しいと感じていた。
それなのにどうしても涙が出てこなかった。
震えながら話すカナヲの言葉をしのぶは黙って聞きつづける。
カ「私だけ、泣けなかった。とても動揺していたけど…身体中汗をかくばかりで涙は出なかった。だけど、誰も…誰も私を責めなかった。皆、優しかった。だから、いっぱい心の中で言い訳した。」
カナヲはしのぶ達に助けてもらうまでの幼少期を思い返す。