第35章 春の足音
最期の最期まで伊之助を守り続けてくれた母の姿。
ぼんやりとした記憶に映る優しい母を思い出し、伊之助の目に涙が溢れ出す。
伊「母ちゃん…。」
伊之助が座り込んで涙を流すその隣にいたしのぶは俯いてその場に立ち尽くしていた。
カ「しのぶ姉さん…??」
そんなしのぶにカナヲはうまく見えないためゆっくりと近づき、名前を呼ぶ。
し「……どうしました??」
しのぶはカナヲの方は向かずに声だけで返事をする。
カ「その…傷は大丈夫ですか??手当ては…」
し「私は大丈夫ですよ。私よりカナヲです。あれを使ったんですから。視力はどうですか??」
カ「右目は…ほとんど見えません。左目は少し見えにくくなったくらいです。
……………ごめんなさい。」
しのぶからの質問に端的に答えた後、カナヲは消え入りそうな小さな声で謝罪の言葉を発した。
ここでしのぶは漸く顔を上げてカナヲを見る。
少し離れた場所に俯いて立っているカナヲは全身傷だらけで見るからにボロボロだった。
そして、その胸には大事に抱かれた、割れてしまっている桃色の蝶の髪飾りがあった。
し「……どうして謝るの??カナヲは奴の頸を斬ってくれたじゃないの。」