第35章 春の足音
童「本当に存在したんだね、こんな感覚が。もしかしたら天国や地獄もあるのかな??ねぇ、しのぶちゃん、ねぇ。
俺と一緒に地獄へ行かない?」
突拍子もない童磨の言葉にしのぶは笑顔で答えた。
し「とっととくたばれ、糞野郎。」
そのまま童磨の頭を地面に落とし、思いきり踏みつけた。
パラパラと消えていく童磨の身体。
伊之助は童磨の消えた場所を踏みにじるように地面を踏みつけていた。
──ダンッ
伊「口程にもねぇ野郎だぜ!ワーッハハハッ!!とどめじゃアアア!!!」
──グリグリグリッ
何度も、何度も、執拗に地面を踏みつける伊之助。
伊「仇は打ったぜ!!ワーッハハハッ!!」
そんな言動とは裏腹に血を流していた伊之助は貧血でよろめき尻もちをついた。
伊「ゼェ、ハァ…。」
そんな伊之助の脳裏にぼんやりと甦るとある日の記憶。
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伊「俺に母親はいねぇ!!」
炭「誰にでもいるよ、お母さんは。」
同期の皆と親兄弟の話になり、自分に親はいないと言う伊之助。
そんな彼に対し、炭治郎がやんわりと答えた。
けれど、物心つく頃には母ではなく猪に育てられていた伊之助は炭治郎の言葉に頷くことは出来なかった。
伊「だったら俺は捨て子だ。母親は俺が要らなかったんだ。」
善「やむにやまれぬ事情があったんだろ。本物の捨て子ならおくるみに名前も入れねぇよ。俺みたいにな。」
自分は要らない子だったと言い切る伊之助に善逸が自分を引き合いに出して宥める。
けれど、やはり母親の顔や愛情を知らずに育った伊之助にはそんなことを言われても理解するのが難しかった。
伊「俺には母親の記憶なんてねぇ!!記憶がねぇならいないのと一緒だ!!」
フンッと鼻をならし仰け反る伊之助に炭治郎が優しく声をかけた。
炭「そんな風に言わないであげてくれよ、伊之助。伊之助のお母さんはきっと伊之助のことが大好きだったと思うよ。」
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あの時は理解出来なかった皆の言葉が今、母親の記憶と共に伊之助の中へ優しく溶け込む。
──琴「伊之助。」
優しく抱きしめ笑ってくれる母。