第35章 春の足音
カナヲの身を案じ、忠告してくれるしのぶ。
それを思い出したカナヲはしのぶの優しいその言葉に対して色んな感情が渦巻いていた。
カ(どうしてそんなことを言うの??自分は命さえ失おうというのに…。どうして私の視力の心配なんてしたんですか??なんて優しい人なんだろう。なんて尊い人なの。守る…命を懸けて守る。一緒に家へ帰る。大好きな家族が待ってる大好きな家に。)
カナヲの強い想いは彼女の原動力となる。
"憎悪”ではなく、大好きな姉への強い想い。
ー 花の呼吸 終ノ型 彼岸朱眼 ー
動体視力を極限まで上げると周囲の動きは鈍く遅く視える。
眼球への圧力で出血し、強膜は赤く染まる。
真っ赤に染まったカナヲの眼。
引き換えに得たその動体視力で童磨の攻撃を躱しながら走り抜けるカナヲ。
カナヲの黒髪をサイドテールで纏めていたカナエの形見である桃色の蝶の髪飾りが氷の血鬼術で壊れ、長い髪が翻る。
そして、身を守るため血鬼術で造った菩薩像の手のひらに乗っていた童磨の元まで駆け上がったカナヲは一気にその頸へと刃を振るう。
──フゥゥウウッ
頸を斬らせまいとする童磨は菩薩を操り、氷の風をカナヲへと吹き付ける。
カ(行け!!行け!!斬れる!!こんなグズグズの腐った頸斬れないはずない!!)