第35章 春の足音
ブツブツと文句を続ける不死川を杏は宥めるように肩を叩く。
『まぁまぁ…私も擦り傷だけですし、お館様もあまね様もひなき様もにちか様も、皆さまご無事ですからご容赦ください。』
その杏の言葉に不死川はこれまでにない程大きく目を見開く。
不「っ!!お館様…は、ご無事なのか…??」
『はい。少し擦り傷や火傷などは負われましたが、命に別状はありません。』
不「そうか…。」
心の底から安心したような表情の不死川に杏はふふっ、と微笑む。
しかし、ハッ、とした不死川は杏の頬に手を伸ばしてきた。
『ぇっ、な、なんですか…??』
突然の不死川の行動に杏はボッ、と不死川が触れている頬を赤く染める。
不「……傷は残らねぇよな??」
『え、えぇ。すぐに煉獄さんが手当してくださったので大丈夫だと思います…。』
頬の手当ての後をジッ、と見つめる不死川。
あまりにも真剣な瞳で見つめてくるため、杏の顔の温度はどんどんと上がっていく。
暫くの間沈黙が流れたが、その空気に耐え切れなくなった杏が瞳に涙を溜めながら不死川を睨みつける。
『……もうっ、勘弁してください…!!』
不死川の手を振り払って自身の頬を両手で包み、手の温度で熱くなっていた頬を冷やす。