第34章 母の愛
怒りを露わにする伊之助をじっと見ていた童磨は涼しい顔のまま口を開いた。
童「猪に育てられたというのによく言葉を知ってるね。だけど間違ったことも覚えたみたいだ。この世界には天国も地獄も存在しない。無いんだよ、そんなものは。人間による空想、作り話なんだよ。どうしてか分かる??現実では真っ当に善良に生きてる人間でも理不尽な目に遭うし、悪人がのさばって面白おかしく生きていて甘い汁を啜っているからだよ。」
カ「……。」
流暢に喋る童磨を睨み付けるカナヲ。
そんなカナヲに構うことなく、童磨の弁論は続く。
童「天罰は降らない。だからせめて、悪人は死後地獄に行くって…そう思わなきゃ精神の弱い人たちはやってられないでしょ??つくづく思う。人間って気の毒だよねぇ。」
とても宗教の教祖をしている者の言葉とは思えない台詞に杏が真顔で口を開く。
『確かに、死んだ後のことなんてわからないし、悪人に天罰が降ることはそうそうない。お前のようにね。
だから、私たちが作ってあげるわ。貴方のためだけの特別に残酷な地獄を。』
ニコッ、と微笑む杏が話し終えた途端に後ろから伊之助が飛び出す。